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  2019年03月25日    

Dr山見のダイバーズクリニックvol.21 胸の痛み(3)

今回も、肺のお話。愛煙家は要注意!の肺気腫についてうかがいました。


愛煙家に迫る「肺気腫」の危険

●「肺気腫」はどういう病気ですか?

山見:肺胞や肺胞に近い末梢の細気管支が破壊されている病気です。肺の伸縮性(コンプライアンス)が低下し、肺胞は脆弱で終末細気管支は虚脱して閉塞しやすくなっています。

●ダイビングにはどんな影響が?

山見:浮上のとき、終末細気管支が閉塞して肺胞が膨張し、減圧性気胸が発生することがあります(図1)。

●肺気腫にかかりやすい人はいますか?

山見:肺気腫がある患者さんの9割以上は喫煙歴があり、慢性気管支炎*1 も合併しています。慢性気管支炎による咳や痰も減圧性気胸の誘因になります* 2。肺気腫と慢性気管支炎を合わせて慢性閉塞性肺疾患*3 と呼ぶこともあります。

●肺気腫になると肺が破れやすいのはなぜですか?

山見:浮上中に減圧性気胸を起こしやすいのは、チェックバルブ機序*4 が生じやすいためです。チェックバルブ機序が働くと、肺胞内の空気が呼吸をするたびに多くなる傾向があります。浮上中、肺胞内で行き場を失った空気は膨張するため肺破裂を引き起こすのです。肺気腫にかかると肺の換気能力(酸素の吸収と二酸化炭素の排出)も低下するため、運動能力が落ちます。泳力低下は溺水や水中トラブルの原因になります。

ダイバーが気をつけるべき「浸水性肺水腫」

●ダイビング時にかかる肺の病気があると聞きました。

山見:「浸水性肺水腫」のことですね。ダイビング中に体液が肺胞内に溜まる病気です。

●ダイビングが原因ですか?

山見:主な原因は、肺胞を取り巻く血管内圧の上昇(肺高血圧)です。表1 に挙げた肺血管内の血液量の増加(ブラッドシフト(図2)*5 など)や肺(肺胞)の過膨張も誘因となることがあります。肺胞を構成する細胞と細胞、および肺胞を取り巻く血管を構成する細胞と細胞の間に􄼱間ができ、血液が肺胞内に漏れ出ることによって発症します(図3)。減圧症ほど有名ではありませんが、発症すると溺れることがあるため、すべてのダイバーが注意しなければいけない潜水障害といえます。

●怖い病気なのですね。

山見:スクーバダイビングで見られる肺水腫は、肺全体に水が溜まる(画像上、白くなる)傾向があり(写真1)、呼吸困難を伴うことが多いのに対して、スキンダイビング(息こらえ潜水)で発症する肺水腫は、レントゲンやCTの陰影(病変部)が狭い範囲に留まり(写真2)、肺出血* 6 による喀血* 7 を伴う傾向があります。

●起きる兆候はありますか?

山見:肺胞に体液が溜まるため、ガス交換ができなくなり、息が苦しくなります。ダイビング中、徐々に起こることもありますが、突然、息苦しさを感じることもあります。ダイビング中、運動量に比して息苦しく感じるときはいつでも浸水性肺水腫を疑わなければいけません。

●応急手当はどのように?

山見:エグジット後も息切れが続くときは浸水性肺水腫の可能性が高くなります。ただちに酸素吸入を行い病院を受診します。

●受診時の注意はありますか?

山見:医師にダイビングによる浸水性肺水腫を起こした可能性があることを告げましょう。減圧症でも肺水腫が起こるため鑑別をする必要があります。できる限り専門医からアドバイスを受けるようにしましょう。

●具体的にはどのような治療をするのですか?

山見:基本的な治療は酸素吸入ですが、減圧症を合併している可能性があれば高気圧酸素治療も行います。合併症のない浸水性肺水腫は、酸素吸入をしながら安静臥位を保つことで24 ~72時間以内に軽快します。

* 1 慢性気管支炎:咳や痰が長く続く病気。
* 2 咳と痰:咳は肺内の圧力を急激に変化させ、痰は気管の閉塞を助長するため減圧性気胸の誘因になる。
* 3 慢性閉塞性肺疾患:肺気腫と慢性気管支炎を総じて慢性閉塞性肺疾患という。英語の頭文字をとってCOPD と呼ばれることが多い。息切れしやすい、咳、痰、風邪の症状が長引くなどの症状が見られる。タバコを吸う人の20%が慢性閉塞性肺疾患にかかり、診断がついた90%の人に喫煙歴がある。タバコを20 年以上吸っている人に多い。わが国では慢性閉塞性肺疾患と診断された患者さんは22万人。40 歳以上の8.6%が罹患している。
* 4 チェックバルブ機序:吸気時は、胸腔内圧が下がるため、終末細気管支が広がり肺胞に空気が流入しやすくなる(終末細気管支も肺胞も外側に引っ張られるイメージ)。一方、呼気時は、胸腔内圧が高まるため、終末細気管支は圧縮され肺胞の空気は排出されづらくなる(終末細気管支も肺胞も外から圧迫されて潰れるイメージ)。肺気腫ではこのような現象が顕著になるため、徐々に肺胞が拡張してしまう。これをチェックバルブ機序という。
* 5 ブラッドシフト:息を止めて深い深度に潜ったとき、手足の末梢血管が収縮し、血液が胸腔に集中する現象。フリーダイビングなどで深い深度に潜降すると顕著に現れる。
* 6 肺出血:肺胞や末梢の気管および肺胞周囲を取り巻く細い血管の破たん(破れ)によって発生する。肺胞出血ともいう。
* 7 喀血:肺から漏れ出た血液を吐くこと。

コラムニスト

山見 信夫(やまみ・のぶお)先生
医療法人信愛会山見医院副院長、医学博士。宮崎県日南市生まれ。杏林大学医学部卒業。宮崎医科大学附属病院小児科、東京医科歯科大学大学院健康教育学准教授(医学部附属病院高気圧治療部併任)等を経て現職。学生時代にダイビングを始めインストラクターの資格を持つ。レジャーダイバーの減圧症治療にも詳しい

*サイト内では、メールによる健康相談も受けている(一部有料)

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ダイビングを楽しむ上で気になる身体の問題を潜水医学の専門家で、自らダイビングインストラクターでもある山見信夫先生 ...
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カテゴリ: ダイビング


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ダイビングを楽しむ上で気になる身体の問題を潜水医学の専門家で、自らダイビングインストラクターでもある山見信夫先生 に解説いただいている月刊DIVERの好評連載。読み損ねた方や...

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