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  2019年03月05日    

Dr山見のダイバーズクリニックvol.19 胸の痛み(1)

今回から「肺」に関連するお話をうかがっていきます。まず、ダイビングが原因で起こる胸の痛みについてうかがいました。


肺も減圧症になる?

●ダイビングの後に胸が痛くなったら潜水病ですか?

山見:ダイビング後の胸の痛みには、ダイビングに直接関係する病気と関係しない病気があります。ダイビングに関係する病気には、減圧症と肺の気圧外傷(肺破裂)(図1)があり、関係しない病気には、狭心症、心筋梗塞、自然気胸、肋間神経痛など、日常起こりうるさまざまな病気が考えられます。

●具体的に「肺の減圧症」になると、どんな症状が現れますか?

山見:減圧症の胸部症状には、胸痛、胸の違和感(圧迫感など)、息切れ、呼吸困難、咳などがあります。胸部症状は、気泡が肺の血管に詰まって発症することもあれば(呼吸循環型減圧症)、脊髄にできた気泡が原因のこともあります(脊髄型減圧症)。

●気泡はどこでできたのですか?

山見:肺の血管に詰まった気泡は、全身から流れてきたもので、肺の毛細血管に捉えられ(トラップされ)*1(図2)、気泡の量に応じて症状が現れます。

●量が多いとどうなるのでしょうか?

山見:気泡の量が少ないときは呼気によって排出されるためまったく症状は現れませんが、少し量が多くなると息切れや胸の違和感が起こります。量が多く重症になると呼吸困難(図3)のため死亡することもあります。呼吸循環型減圧症またはチョークス型減圧症とも呼ばれます。

●脊髄の気泡が原因のときはどうなりますか?

山見:胸髄(胸のレベルの脊髄)にできた気泡でも、胸部の違和感や息苦しさが現れることがあります(脊髄型減圧症)。胸髄から枝分かれした神経が、胸部に分布しているからです。

症状がすぐに現れる肺破裂

山見:ダイビングの後、胸の症状が見られたときは、肺の気圧外傷も疑う必要があります。

●講習で、呼吸を止めて浮上すると肺が破裂する、と習いました。

山見:はい。息を止めたまま浮上すると肺の空気が膨張して肺気圧外傷(肺破裂)が発生します。

●「肺気圧外傷」の特徴は?

山見:発症時期は減圧症より早く、多くはダイビング終了後30分以内です。重症な場合は呼吸困難になりますが、軽症例では胸の違和感や軽い息切れだけのこともあります。胸部レントゲンやCTを撮り、縦隔気腫*1や皮下気腫*2が見つかり診断がつくこともあります。

●肺の破裂には種類があるのですか?

山見:肺の気圧外傷には、減圧性気胸*3、縦隔気腫、皮下気腫があります。気圧外傷によって肺の外に出てしまった空気は、普通、臓側胸膜と壁側胸膜の間にたまります。たまった空気は浮上とともに膨張し、肺や心臓を圧迫することもあります。これを緊張性気胸といいます。緊張性気胸になると、呼吸ができなくなり死亡することもあります。

●肺破裂がダイビング事故の死亡原因にもなるのですね。

山見:行き場を失った空気は血管の中に入り込むこともあります。陸上で起こる気胸(自然気胸)ではそのような現象は見られませんが、ダイビングでは浮上中、漏れた空気が臓側胸膜と壁側胸膜の間で膨張するため、圧力が高まり血管中に入り込むのです。血管内に入った空気は心臓を通過し、脳動脈ガス塞栓*4を起こすこともあります。これらの病態を総称して肺過膨張症候群【vol.20を参照】といいます。

危険なのはパニックダイバー

●肺気圧外傷はどのようなダイバーによく見られますか?

山見:パニックで、息を止めて浮上したときに発生しがちです。ブラ*5、結核後などに見られる空洞病変、慢性閉塞性肺疾患(肺気腫、慢性気管支炎)があるダイバーは、息を止めずに浮上しても発生することがあります。

●スキンダイビングでも肺気圧外傷は起こりますか?

山見:スキンダイビングでは息を止めて潜降しますが、肺の気圧外傷はめったに起こりません。潜降中、肺は縮小しますが、海面に浮上すると元の大きさに戻り、過膨張することはないからです。しかし、ブラなどの病気がある方は、浮上中、まれですが肺気圧外傷を発生することがあります。

*1 縦隔気腫:心臓と肺の間や右肺と左肺の間に空気が溜まる病気。
*2 皮下気腫:皮膚の下に空気が溜まる病気。
*3 減圧性気胸:減圧中に肺が破れる病気。多くは浮上中、肺内の圧力に不均衡が生じたときに発症する。
*4 脳動脈ガス塞栓:脳の血管に気泡がつまり、手足の運動麻痺や知覚麻痺、言語障害などの中枢神経症状が現れる病気。
*5 ブラ(気腫性肺嚢胞):肺胞の構造が壊れ、いくつかの肺胞が融合して脆弱になり破けやすくなっている病気。主に肺の上部(首に近いところ)にできる。

コラムニスト

山見 信夫(やまみ・のぶお)先生
医療法人信愛会山見医院副院長、医学博士。宮崎県日南市生まれ。杏林大学医学部卒業。宮崎医科大学附属病院小児科、東京医科歯科大学大学院健康教育学准教授(医学部附属病院高気圧治療部併任)等を経て現職。学生時代にダイビングを始めインストラクターの資格を持つ。レジャーダイバーの減圧症治療にも詳しい

*サイト内では、メールによる健康相談も受けている(一部有料)

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ダイビングを楽しむ上で気になる身体の問題を潜水医学の専門家で、自らダイビングインストラクターでもある山見信夫先生 ...
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カテゴリ: ダイビング


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