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  2019年02月05日    

Dr山見のダイバーズクリニックvol. 16 心臓の病気

今回のテーマは「心臓の病気」。不整脈や胸の痛みなど。、軽く考えがちな症状でもダイビングシーンではリスク要因になることがあります。中高年ダイバーの方はとくに注意したいテーマです。


侮るなかれ不整脈。不安なら、ぜひ検査を

ーー不整脈とはどんな病気ですか?

山見:脈拍の間隔が不規則な病気を不整脈といいます。不整脈には危険性が高いものもあれば低いものもあります。正確な診断がついていなければまずは病院を受診しましょう。

ーーダイビングで不整脈が誘発されることがあるのでしょうか?

山見:ダイビングでは、運動、緊張、ストレス、冷え、首の圧迫(おもにドライスーツによる)、海水の誤飲、換気不全、溺水など、不整脈を誘発する要因があります。息こらえ潜水では、ダイビング・リフレックス*1によって、不整脈が発生することもあります。

ーーダイビング適性は?

山見:意識が消失したり、突然死する可能性がある不整脈はリスクが高いと判定されます。運動機能が低下する不整脈は、心機能(心臓の収縮力など)が低いほどリスクが高まります。

ーー種類によるのですね。

山見:通常、12分間で1,600m以上走れる強度の運動をしても差し支えない状態であれば危険性は低いと判断されます。低リスクと判定された不整脈でも後になって危険なタイプに移行することがあるため定期的な診察が必要になります。

ーーどのような検査を?

山見:24時間ホルター心電図*2がよく行われます。1日に何回くらい不整脈が出て、その中に危険な不整脈はどのくらいあるかがわかります。同時にどのような行動で誘発されるかも知ることができます*3。
治療にも予防にも有用な検査となります。最近は、ドライスーツを着用して防水のホルター心電計を装着してダイビング中の記録もできるようになりました。ダイビング中に不整脈が出るダイバーでは有意義な検査になっています。

胸の痛みは、さまざまなトラブルの黄色信号

ーー中高齢になると心筋梗塞や狭心症などが増えますが、ダイビングの影響はありますか?

山見:ダイビング中の死亡事故の約20%は心臓の病気によるものです*4。

ーーそんなに!

山見:中でも胸痛を伴う心臓病はリスクが高い傾向にあります。胸痛の既往がある方は、ダイビングをする前に検査を受けて診断をつけなければいけません。胸痛は、心臓だけでなく、肺、血管、食道、神経、皮膚、骨の病気で見られることもあります。

ーー胸痛が見られる心臓病は?

山見:代表的なものに狭心症と心筋梗塞があります。

ーーどちらもよく聞く病名ですね。

山見:最近は中高齢ダイバーが増えたため、狭心症の予防薬を飲みながら潜っている方を見かけます。狭心症で服薬中の方は、ダイビング前に医師を受診して、問題がないか確認しておきましょう。

ーー心筋梗塞の既往があってもダイビングはできるのでしょうか?

山見:心筋梗塞*5を発症した方では、重症な後遺症が残っていないことがダイビング開始の条件になります。発症直後の危険な状態が鎮静化し、突然死を招く危険な不整脈が発生する可能性が低くなり、運動機能が保たれているようであればダイビング復帰は可能と判断されます。

ーー肺や胃腸、神経の病気でも胸痛を起こすのですね?

山見:肺の病気としては、自然気胸や肺塞栓があります。自然気胸は、ブラ*6と呼ばれる部分がなんの前ぶれもなく突然破れて発症する病気です。ブラがある方や自然気胸の既往がある方は、ダイビング時に肺気圧外傷を発生するリスクが高いので「危険性が高い状態」で、ダイビングは危険と判定されます*7。

ーー肺血栓とは?

山見:肺血栓は、肺の血管が血の塊で詰まる病気です。原因の1つにはエコノミークラス症候群があります。エコノミークラス症候群は、座っている最中にできた下肢の深部静脈血栓(血の塊)が肺に流れて発症します。ダイバーでは、海外で潜った後、帰国する際に発症した例があります。長時間航空機に乗るときは、血液が固まらないよう小まめに下肢を動かし水分を多く摂るようにしましょう。

ーー食道や胃の病気でも胸痛が見られるのですか?

山見:代表的な病気に胃食道逆流*8があります。ダイビングでは、ウエットスーツによる腹部圧迫によって逆流性食道炎が悪化することがあります。

ーー皮膚や神経の病気が原因の胸痛というのは?

山見:肋間神経痛や帯状疱疹があります。肋間神経痛は肋骨に刺激が加わると痛むためウエットスーツ着用時に悪化します。帯状疱疹では、水疱を伴う発疹が現れるため触ると刺激感が強くウエットスーツで擦れると悪化します。発症直後はダイビングを控えるべきですが、どうしても潜るときは、軟膏をたっぷり塗り刺激の少ないガーゼで覆ってからウエットスーツを着てください。

先天性の心臓病「左右シャント」は要注意

ーー生まれつき心臓内の左右の部屋を仕切る壁に穴が開いている病気があるそうですが?

山見:右心と左心を仕切る壁に穴が開いている形態には生理的なものと病的なものがあります。頻度の高い病的なものには心室中隔欠損症や心房中隔欠損症があります。

ーーダイビングでのリスクは?

山見:心臓の壁に穴が空いている病気のリスクはおもに2つの項目で判定されます。1つは、運動をしても問題ないか、もうひとつは右心の血液が左心に流れないかです(右左シャントという*9)。

ーーどのくらいの運動機能があれば問題ないのでしょう?

山見:12分間で1,600m走っても問題ない程度の心機能が保たれていればリスクは少ないと判定されます。

ーー右左シャントの基準は?

山見:ときに起こる逆流でもリスクありと判定されます。穴を閉じる手術をしても、完全に修復されていないことがあるため、主治医に確認が必要です。

ーー生理的な穴もあるそうですね?

山見:生理的な穴には、右心房と左心房を仕切る壁にある卵円孔開存*10があります。卵円孔開存の多くは、穴の部分が左房側に開くドア状になっていて、右心の血圧が上がったときだけ左心に血液が流れます。咳をしたり息んだ直後、右心の血圧が上がると、弁が開いて右左シャントが起こりやすくなります。中枢神経に重大な神経症状が発生した減圧障害の約50%に卵円孔開存が見つかり、卵円孔開存があると重大な減圧障害に約5倍かかりやすいという報告もあります。検査などで卵円孔開存が見つかった方は、できる限り静脈内気泡を作らないようなダイビングを心がけ、エグジット後は、右左シャントを起こす行動を控える必要があります*11。

ーー最後に、心臓病のダイビング適性の判定について教えてください。

山見:ダイビングの適性は、1.ダイビング活動に危険をもたらす病気はないか、2.ダイビングによって悪化する病気はないか、3.運動能力は十分か、4.水圧に順応できるかで判断。その結果に従い4つに判定されます。以下にまとめたので、参考にしてください。

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●心臓病のダイビング適性

1 危険性が高い状態
(ダイビング中に発症すると生命に危険が及ぶ病気)
失神を起こす不整脈、発作性頻拍、心室細動の既往、運動能力低下をきたす不整脈、運動誘発性不整脈、拡張型心筋症、うっ血性心不全、大動脈瘤破裂の危険性がある状態など。

通常、ダイビングは控える。


2 相対的に危険な状態
ダイビング中に発症しても生命に危険が及ぶほどではないが、健常者よりリスクを高くする病気がある)
経皮的冠動脈形成術(PTCA)後、心筋梗塞の既往(重症例や後遺症が残っているケースは危険性が高い)、きちんと治療されている高血圧、心臓ペースメーカー装着者など。

通常、ダイビングを開始


3 一時的に危険な状態
(治ればダイビングに影響しない病気)
一時的な不整脈など

該当する病気が治ってからダイビングを開始
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*1 ダイビング・リフレックス(潜水反射):息こらえや顔・首が冷やされることによって生じる徐脈になる反射。
*2 24時間ホルター心電図:胸部に24時間装置を付けて記録する心電図。
*3 誘発因子には、運動、緊張、飲酒、過労、満腹、空腹、睡眠、カフェインや刺激物の摂取がある。
*4 ダイビングにおける死亡者の特徴には、40歳以上の中高齢者、心臓病の既往、なんらかの治療薬の服用、高血圧がある。心臓が原因の死亡事故は、エントリー直後と何事もなくダイビングを終了しようとした直前直後に発症することが多い。
*5 40歳を過ぎると心筋梗塞の発症率が上昇する。突然死した中高齢者の約80%は心筋梗塞などの虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)が原因。
*6 気腫性嚢胞ともいわれる肺胞の形態異常。組織が弱いため破れやすい。
*7 一度、自然気胸を発症した方の再発率は約30%、手術でブラを取り除いた方の再発率は3%以下。ブラを取り除いてもダイビング時のリスクが十分に低下したとはいえない。
*8 胃酸が食道に逆流すると食道粘膜に炎症が生じる。
*9 通常、右心の静脈血は肺に流れるが、左右を仕切る壁に穴が開いていると右心の血液が直接左心に流れ込む。これを右左シャントという。右左シャントがあると、ダイビング後に発生する静脈内気泡が動脈に流れ、脳の動脈ガス塞栓を引き起こすことがある。
*10 卵円孔は、胎児期には開いているのが正常で、生直後から1歳くらいまでにおよそ閉鎖する。成人になっても約20%は完全には閉鎖していないが、日常生活に支障がなければ病気としては扱わない。
*11 健常人ではほとんどの場合、左心は右心より血圧が高いため、右心の気泡が左心に流入することはないが、咳をしたり息んだりした直後、右心の圧が左心より高くなり左心に流れることがある。

コラムニスト

山見 信夫(やまみ・のぶお)先生
医療法人信愛会山見医院副院長、医学博士。宮崎県日南市生まれ。杏林大学医学部卒業。宮崎医科大学附属病院小児科、東京医科歯科大学大学院健康教育学准教授(医学部附属病院高気圧治療部併任)等を経て現職。学生時代にダイビングを始めインストラクターの資格を持つ。レジャーダイバーの減圧症治療にも詳しい

*サイト内では、メールによる健康相談も受けている(一部有料)

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ダイビングを楽しむ上で気になる身体の問題を潜水医学の専門家で、自らダイビングインストラクターでもある山見信夫先生 ...
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