783
Fav
  2019年01月20日    

落としたカメラを追いかけ水深53m の海底へ/危機からの脱出

読者の方から寄せられたさまざまなトラブル脱出体験談をPADIコースディレクターが分析・評価し、ご紹介。月刊DIVERで連載中の「危機からの脱出」のバックナンバーです。(DIVER 2018年9月号掲載)


ダイビング歴3年のKさん(40 本/男性)。初めてのパラオ旅行のために購入したカメラ機材。水中でうっかり落としてしまい、大深度へ回収に向かった恐怖体験をご紹介します。

落としたカメラを追いかけ水深53m の海底へ

3年前に沖縄でCカードを取得した僕は、年に1~2回、長期休暇を利用してリゾートダイビングを楽しんでいます。これは昨年末にパラオへ行ったときの体験です。
経験本数は30本を超え、憧れのパラオは初来島だったので意気込みも熱く、出発前に総額30万円の水中カメラ機材を購入して行きました。このときは会社のダイバー仲間と2人、3日間のダイビングを予定していました。天候海況ともに良好で初日からさっそく外洋ポイントへと出発。僕らの他に2名、計4名のグループで、1本目は「ジャーマンチャネル」へ。マンタは空振りに終わりましたが、魚影のスケール感に興奮しながら撮影も楽しめました。

BC に装着していたはずのカメラ。ふと気づくと落下していく姿が

続く2本目は「ビッグドロップオフ」へ。ガイドによると少し流れがあるようですが、僕はドリフトダイビングも経験済みだったので特に不安もなく、さっそくENします。棚上に潜降し、切り立つドロップオフが続く景観に圧倒されつつ、全員で水深を下げていきました。流れは思ったほど強くはなく、壁に沿って流しながら豪快な地形を撮影し、カメラから手を離しました。カメラはBCにカラビナで装着していて、1本目に潜ったときはカメラを離すと少し引っ張られる感覚を感じたのですが、このときは何も感じませんでした。ふと嫌な予感を感じてBCを確認したところ、なんとカメラが見当たりません。「え、カメラ、ない!!」EN後、たしかにカラビナをBCに装着したはずでしたが、何かのはずみで外れてしまったのかもしれません。一瞬で血の気がサーッと引いていく中、恐る恐る眼下を見回すと、僕のカメラがみるみる沈んでいくではありませんか!
パラオに来るために奮発して購入した新品カメラ機材が、海底に吸い込まれるように遠ざかっていきます。僕は危険も省みず、とっさにカメラを回収しようと一人で深場へ泳いでいきました。海底は見えていましたが、どのくらいの水深なのかは把握できず。それでも30万円を見捨てるわけにはいかず、一目散に追いかけていきました。
以前、水深30mまでは行ったことがありましたが、窒素酔いの症状もなく、危機感は薄かったと思います。しかし、沈みゆくカメラとともに水深を下げていくうちに、呼吸が苦しくなってきて心臓もバクバク。ふとコンピュータで水深を確認すると、すでに水深40m近くでした。「これ以上行ったら、体が危ない……」恐怖がいっきに増した途端、心臓の鼓動は急上昇し、さらには手足が痺れてくるような感覚も感じ始めました。そんな矢先、カメラが海底にストンと着地するのが見えました。「よかった! あと少しくらいなら……」と、震える体や息苦しさに耐え、そのまま海底を目指します。冷静さも失い、フィンキックもおぼつかずにたいして蹴れてはいなかったと思いますが、水深が深いためマイナス浮力で体がどんどん沈んでいったようです。

窒素酔いの症状に襲われ、体の感覚も思考も麻痺状態に

そうして海底に到着してカメラを拾い、ふと水深を確認すると、なんと水深53m ! 生死の境を感じる深さでしたが、頭上を見上げると、ガイドが必死の形相で僕に向かって泳いでくる姿が見えました。その様子になぜか急に安心感を覚えた僕は、「ここで待っていよう」と海底に着底したままガイドを待ち構える僕。冷静に考えるとゾッとする行為ですが、窒素酔いにかかっていたのかもしれません。
そうしてガイドが海底まで迎えに来てくれると、僕の腕を掴んでいっしょに浮上してくれます。そのまま全員で水深5mまで浮上し、長めの安全停止をした後、無事にEXすることができました。
ボートにピックアップしてもらい、船上でカメラを落とした経緯を説明しました。幸い減圧症などの症状はとくに感じられませんでしたが、念のため僕だけ3本目はリタイア。体もカメラも無事だったのが何よりでしたが、身勝手に危険な行為に走ってしまったことは今でも反省しています。

沈みやすいカメラは、浮力調整など対策を講じておくとベター

水中撮影が好きなダイバーにとって、カメラが深場へ落ちてしまうのは、かなり痛手となるトラブルです。水中で沈んでしまうカメラ機材が多いですが、沈みすぎないよう浮力調整をしておいたり、BCD にぶら下げる場合は1 か所だけではなく2か所で止めるなどの工夫することも大切です。また固定をしたうえで、片手でも必ず支えて持つなども落下対策としては有効だと思います。なお、カメラに限らずライト類なども、同様に固定するのがおすすめです。

コメント=我妻 亨( PADIコースディレクター)

DIVERMAG/EXPERIENCE DIVERMAG/EXPERIENCE
DIVERMAG公式アカウント。経験談などの記事を投稿しています。
この記事が気に入ったらいいね!しよう最新情報をお届けします
カテゴリ: ダイビング


キュレーター紹介
DIVERMAG/EXPERIENCE
DIVERMAG/EXPERIENCE
DIVERMAG公式アカウント。経験談などの記事を投稿しています。

no comments

SNSでDIVERMAGをフォローしよう!