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  2018年12月05日    

Dr山見のダイバーズクリニックvol.11  花粉症 後編

今回のテーマは前回に続いて「花粉症」です。重大な耳と副鼻腔のトラブルやダイビングへの影響についても詳しくうかがいましたので、しっかり対処しましょう。


寒いと耳が抜けにくいって本当ですか?

——水温が低いと耳が抜けなくなるダイバーがいます。

山見:体が冷えたとき鼻水が出る体質を血管運動性鼻炎といいます。温度差アレルギーとか寒冷アレルギーといっている方もいます。血管運動性鼻炎の方は冷水温下でダイビングをしたときにスクイズやリバースブロックを起こしやすい傾向があります。花粉症もある方は、水温が低く花粉が飛散する2〜
4月に耳や副鼻腔のトラブルが多く見られます。

——どうして起こるのですか?

山見:鼻水や鼻づまりの症状は、自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスによって調整されています。健常者では、身体が温まると副交感神経が活発に働き血管が広がり、逆に冷えると交感神経が働き血管が収縮します。しかし、血管運動性鼻炎の人では、冷えると鼻粘膜が充血して鼻水や鼻づまりが見られるのです。血管運動性鼻炎の方が冷水温下でダイビングをするときは、頭部だけでなく全身を保温することが大切になります。症状がひどい方は、水面休息時間も身体を冷やさないようにしましょう。

重大な耳と副鼻腔のトラブル

——花粉症や血管運動性鼻炎が引き起こす危険なトラブルにはどのようなものがありますか?

山見:外リンパ漏、副鼻腔リバースブロック、中耳腔リバースブロックなどがあります。これらは、水温の低いときやスギ花粉症の時期に多く見られます。

——外リンパ漏とは?

山見:中耳腔と内耳の間の薄い膜が破れる圧平衡障害です。多くは無理な耳抜きをしたときに発生します。息むことにより頭の血圧が上昇。それに伴い内耳のリンパ液圧が上昇。行き場を失ったリンパ液が内耳窓(卵円窓と正円窓)を破り中耳腔に流出するというのが一般的です(図1)。

——副鼻腔リバースブロックでは?

山見:膨張した空気が、骨の隙間を通り、脳、目、頬のほうに漏れ出ることがあります。脳に漏れる(気脳症)と脳の機能障害が見られ、亡くなることもありますし、目や頬へ漏れると目が突出したり顔面が変形することもあります。

——中耳腔リバースブロックでは?

山見:痛みを我慢して浮上すると、鼓膜を破り外リンパ漏を起こすことがあります。鼓膜が破れると耳が聞こえにくくなり中耳炎になりますし、外リンパ漏が発生すると、難聴だけでなく、めまいや耳鳴りが長期間続き、一生、潜れなくなることもあります。

リバースブロックになったら?

——リバースブロックを起こしたときの対処法は?

山見:基本はゆっくり浮上することです。痛みがあっても、ゆっくり浮上すればなんとか浮上できることもあります。

——痛みが強く浮上できなかったら?

山見:バディにリバースブロックを解消する薬を持ってきてもらいます。水中でエフェドリン塩酸塩(商品名:エフェドリン塩酸塩、ヱフェドリン「ナガヰ」)という薬を服用します。研究報告はありません
が経験上は有効です。

——水中で薬を飲むのですか?

山見:薬を飲んでダイビングをしてはいけませんし、特にエフェドリンはダイビングでは使ってはいけない薬とされています。エフェドリンは耳抜きの薬として重宝されていた時代もありましたが、水中で薬効が切れリバースブロックを起こす方がいました。そのため現在は禁忌薬剤とされています。

——禁忌薬を飲むのですね?

山見:ひどいリバースブロックが起こってしまうと、痛みのために浮上できなくなり、精神的にも余裕がなくなり危険な状況になります。無理して浮上すると鼓膜が破れたり外リンパ漏になることもあります。最後の手段としてエフェドリンを服用するのです。

——どうして効くのですか?

山見:エフェドリンには、鼻粘膜の充血を抑える働きがあるので、服用すると耳や副鼻腔の通気がよくなります。

——薬局で買えるのでしょうか?

山見:日本では医師の処方箋が必要な薬ですが、海外では、アセトアミノフェンとの合剤として、スーパーやダイビングショップなどで販売されています。通称「赤玉」。スダフェッド、エンテックス、サイナスなどの商品名で売られています。

非常手段は水中服薬!

——水中での服用方法は?

山見:バディに薬(エフェドリン)、飲料水、予備のタンクを持ってきてもらいます。薬は海外であれば比較的容易に手に入りますが、国内では前もって処方してもらっておく必要があります。ただし、不整脈、高血圧症、心臓病、甲状腺機能亢進症、糖尿病、緑内障、前立腺肥大症のある方は慎重に使用す
る薬とされていますので注意してください。

——なにか注意点はありますか?

山見:水中で水を口に含むときは、片手で容易につぶせるペットボトルがいいでしょう。「いろはす」と「天然水」は使いやすく感じます。

——薬はどのくらいで効くのですか?

山見:1時間以上かかります。

——エア切れの心配はありませんか?

山見:リバースブロックで、これ以上浮上できないと感じるのは水深6m以浅ですが、浮上時ですからエアの残量が少なく、精神的に余裕がなくなります。予備タンクは必要ですね。水深が浅いので長く水中に留まっても減圧症のリスクはあまり増加しません。

花粉症を根治しよう

——花粉症は、根治療法ができたようですね。

山見:スギとダニについては、最近、舌下免疫療法(減感作療法)が保険適応になりました。スギ花粉舌下液はシダトレン、ダニ舌下液はアシテアとミティキュアという薬です。

——ほんとうに治るのでしょうか?

山見:スギ花粉舌下液は、約70%の方に効果があり、まったく症状がなくなる方は10〜15%、舌下を行った期間だけは少なくとも効果が見込めると報告されています。

——一生花粉症にはならないのですか?

山見:3年行えば少なくとも3年、5年行えば少なくとも5年効果が持続するといわれています。咳やアトピー性皮膚炎が悪化するなどの報告はありますが、重篤な副作用は報告されていません。

——いつでも受けられますか?

山見:舌下開始は、スギ花粉飛散前の10〜12月がよいとされています。







※1 スクイズ>>潜降時に身体の空洞内(耳や副鼻腔など)に空気が入らず圧平衡できない状態。「体腔が締めつけられる」という意味で使用される。海面から潜降する際、空気が中耳腔や副鼻腔にまったく入らないと、水深が深くなるにつれて痛みが増し、水深4 〜5mに達すると激痛になる。スクイズが生じても
耳抜きをして圧平衡されれば潜降できるが、無理な耳抜きをすると外リンパ漏やリバースブロックを起こすことがある

※2 リバースブロック>>空洞内(中耳腔や副鼻腔など)の空気が浮上時に排出されない状態。リバースブロックは、花粉症、アレルギー性鼻炎、風邪などで、鼻水や鼻づまりがあるときに発生しやすい。浮上時、耳や副鼻腔からポコッポコッまたはキュ〜という音をたてながら排気されるときは、リバースブロックが起こる前兆なのでゆっくり浮上しなければいけない

コラムニスト

山見 信夫(やまみ・のぶお)先生
医療法人信愛会山見医院副院長、医学博士。宮崎県日南市生まれ。杏林大学医学部卒業。宮崎医科大学附属病院小児科、東京医科歯科大学大学院健康教育学准教授(医学部附属病院高気圧治療部併任)等を経て現職。学生時代にダイビングを始めインストラクターの資格を持つ。レジャーダイバーの減圧症治療にも詳しい。

*サイト内では、メールによる健康相談も受けている(一部有料)

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ダイビングを楽しむ上で気になる身体の問題を潜水医学の専門家で、自らダイビングインストラクターでもある山見信夫先生 ...
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ダイビングを楽しむ上で気になる身体の問題を潜水医学の専門家で、自らダイビングインストラクターでもある山見信夫先生 に解説いただいている月刊DIVERの好評連載。読み損ねた方や...

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