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  2018年10月15日    

Dr山見のダイバーズクリニック vol. 8 腰痛

今回のテーマは「腰痛」。重いタンクを背負うダイビングには、腰痛のリスクが潜んでいます。小さな無理が引き金になって、辛い症状に悩むことがないよう、十分に注意したいですね。


腰痛持ちでもダイビングはできますか?

̶̶ 腰痛持ちのダイバーは多いようですが、潜ってもいい目安はありますか?

山見:日常生活に問題がなく、軽いジョギング程度の運動ができればダイビングは可能です。ただし、足にしびれや放散する痛みを伴うときは控えましょう。腰痛は、原因がはっきりしないいわゆる腰痛症から、悪化すると下肢の動きが悪くなるような病気までいろいろあります。ダイビングをする前にきちんと診断をつけておきましょう。

̶̶ ダイビングで腰痛が悪化することはありますか?

山見:水中では、重力による負担はありませんが、動作や冷えによる影響があります。うまく中性浮力がとれず、姿勢を変えたときに腰痛がみられることもあります。また、緊張のために腰の筋肉が硬直して痛むこともあります。

̶ どんな点に気をつければいいでしょう。

山見:腰痛持ちのダイバーは、器材を着脱するときと、水中の姿勢に気をつけてください。タンクを背負うときは、腰に負担をかけないようバディに手伝ってもらいます。そのとき、腰を反ったり捻らないよう気をつけましょう。腰掛けて装着したときは、バディにタンクを持ち上げてもらいながら立ち上がります(図1)。立位で装着するときは、バディにBCを肩の高さまで持ち上げてもらうといいですね(図2)。ウエットスーツに着替えている最中に腰が痛くなることもあります。手首足首にファスナーを付けたり、内側を起毛の着やすい生地にしておくと脱着が楽にできます。また、荷物を持ち上げるときは、できるだけ身体に近づけ背筋を地面と垂直にして立ち上がりましょう(図3)。

腰にやさしいのはボートダイビング

̶̶ 腰への負担が少ないのはボートダイビングでしょうか?

山見:一般には、タンクを背負って歩く距離が短いボートダイビングのほうが腰に負担がかかりません。中には、ステップに腰をおろしてタンクを装着し、そのまま立ち上がらずエントリーできるボートもあります(図4)。流れや波が静かであれば、海面でタンクを着脱することもできます。

̶̶ ビーチエントリーで気をつけることはありますか?

山見:足元にはじゅうぶん注意しましょう。ゴロタ石や苔が生えて滑りやすい所を歩くときは十分気をつけなければいけません。バランスを崩して転倒すると、腰に大きな負担がかかります。

̶̶ 水中でも注意点はありますか?

山見:水中の姿勢には注意が必要です。たとえば、背筋を反らした状態で泳いでいると腰痛が発生することがあります。中性浮力は基本ですが、腰痛持ちの方は少しマイナス浮力にしておいたほうが腰に負担がかかりにくくなります(図5)。沈みやすいフィンを使うと楽に潜れるという方もいます。

̶̶ 腰痛が起きにくい泳ぎ方はあるのでしょうか?

山見:自由な姿勢で泳いだほうが腰痛の発生は少なくなります。バタ足をすると腰痛が見られるダイバーは、フィンを左右にスライドするキックで泳ぎます。また、背泳ぎ姿勢で少し腰を曲げ、後ろ向きに泳いでも腰の負担は軽くなります(図6)。

椎間板ヘルニアはダイビングで悪化する?

̶̶ ところで、腰痛はどうして起こるのでしょう?

山見:痛みが発生する箇所はさまざまです。神経、筋肉、靭帯、骨など、病気によって障害部位が異なります。筋膜性腰痛症(筋緊張性腰痛)は、筋肉が収縮してこわばったために起こる腰痛で、水中で長時間、同じ姿勢をとることで痛みが現れます。揺れるボートで、常に腰に力を入れていたために発生することもあります。

̶̶ ひと口に腰痛といっても原因はさまざまなんですね。

山見:はい。変形性腰椎症の方では、腰を反って泳ぐときに痛みが現れることがあります。これは、骨の隙間に神経が挟まれ刺激されることが原因とされています。タンクや重器材の運搬が、腰椎椎間板ヘルニアを悪化させることもあります。

ー重い荷物はダイビングにはつきものなんですが……。

山見:椎間板は、背骨と背骨の間にあり、クッションの役割をしています。この椎間板が、正常な位置から飛び出た病気を椎間板ヘルニアといいます。物を持ったときに発生することが多いので、器材を担ぐときはとくに注意しましょう。ダイバーは、腰だけでなく首の椎間板を傷めることが多いことも知られています。首に負担がかかる姿勢や動作にも注意を払う必要があります。

̶̶ 椎間板ヘルニアでもダイビングをしてもいいですか?

山見:日常生活に支障がなく、ジョギングなどの軽い運動ができればダイビングは可能です。手や足のしびれを伴うときはやめておきましょう。

ー手術をした後のダイビングは?

山見:痛みや運動機能の症状が回復すれば可能です。通常の手術では3か月、レーザー手術では1か月程度すれば多くの方がダイビングに復帰できます。

日ごろの運動不足でぎっくり腰!?

ーぎっくり腰の場合はどうですか?

山見:ぎっくり腰は急性腰痛発作の俗称で、正式には急性腰痛症といいます。たとえば、休みの日にほとんど活動せず、筋肉や組織が鈍った状態で、翌朝、歯を磨くときに腰を反らせたら突然激痛が……というような発症をします。

̶̶ いきなりの激痛! ですね。

山見:海外では「魔女の一撃」とも言われています。痛みが生じるメカニズムは明らかにされていませんが、神経、筋膜、靭帯、椎間板など、いずれが傷んでも発生すると考えられています。

̶̶ なりやすい人というのはいますか?

山見:誘因には、疲労、睡眠不足、無理な姿勢、体重増加、筋力低下などがあり、腰のあたりに違和感を感じた後に発症することもあります。休みの日にダイビングをして体を動かすのはいいことですが、日ごろ運動不足だとダイビングが誘因になることもありますから注意しましょう。

̶̶ 治療は?

山見:基本は安静と痛みが現れない程度の活動。ひどければ痛み止めを使用します。発症後、2〜3日で激痛は改善し、ほとんどが1週間以内に治ります。

腰痛予防は日々の積み重ねから

̶̶ 最後に腰痛の予防法を教えてください。

山見:日ごろからできる予防法は、運動、腹筋・背筋の強化、ストレッチ、腰痛体操です。背中やおなかの筋肉は腰を保護してくれます。軽い運動でも長く続けて筋力を維持できれば予防につながります。ただし、思い立ったときだけ激しい運動をするのは逆効果なので気をつけましょう。

̶̶ ストレッチもいいんですね?

山見:筋肉や関節が硬くなりがちな中高齢者では、ストレッチや腰痛予防体操(図1)をするだけでも意味があると言われています。

̶̶ 準備体操も効果がありますか?

山見:ダイビング前の準備運動は高齢者ほど大切になります。腰痛持ちの方は、腰の保温と保護を兼ねて厚手のウェットスーツを着ることもおすすめします。

コラムニスト

山見 信夫(やまみ・のぶお)先生
医療法人信愛会山見医院副院長、医学博士。宮崎県日南市生まれ。杏林大学医学部卒業。宮崎医科大学附属病院小児科、東京医科歯科大学大学院健康教育学准教授(医学部附属病院高気圧治療部併任)等を経て現職。学生時代にダイビングを始めインストラクターの資格を持つ。レジャーダイバーの減圧症治療にも詳しい。

*サイト内では、メールによる健康相談も受けている(一部有料)

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ダイビングを楽しむ上で気になる身体の問題を潜水医学の専門家で、自らダイビングインストラクターでもある山見信夫先生 ...
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ダイビングを楽しむ上で気になる身体の問題を潜水医学の専門家で、自らダイビングインストラクターでもある山見信夫先生 に解説いただいている月刊DIVERの好評連載。読み損ねた方や...

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